異業種が組む強力なタッグ
市長 グッドデザイン賞の受賞、おめでとうございます。
林業は大事な産業で、地域の元気を支える基盤の一つです。
曾祖父の代から山林を引き継いできたので、わたし自身、山を守ることに対して思い入れがあります。
森林資源の循環活用というと木質バイオマスなどを中心に進んできましたが、建築材や家具などの素材として活用しながら地域で循環する仕組みを作りたいという考えから、地元の工務店などを利用し県産材を活用して行う新築やリフォームへの補助制度も行っています。
TSUYAMA FURNITUREは、ヒノキやスギという地域の財産の活用に向け、業種の異なる5社が協力して進める、他にはない取り組みだと思っています。
まずは、皆さんがTSUYAMA FURNITUREに参加したきっかけを教えてください。
参加者A 約20年前まで、インドネシアやマレーシアなどから仕入れた外材(外国産材)で、建具を作っていました。
日本は、第二次世界大戦後、国内で十分に調達できない木材を海外に求めていきました。
調達先の国で切り尽くし、木材がなくなると、次の国、次の国と調達先を変えていく方法を採用していました。
樹木の伐採で熱帯雨林の面積が減少し、地球の温暖化にも影響しているということが認知され始め、これまでの方法を続けていたら、いつかは森林資源も無くなり、地球環境を滅ぼしかねない非常に厳しい状態にあることを知りました。
将来的に木材が使えなくなり、加工業者はモノが作れないという事態もおとずれるのではと危惧を抱いていました。
そんな中、緑豊かな日本の山を振り返り、有効に活用できないかと思い、ヒノキやスギなどの国産材の活用について考え始めました。
このときの思いが現在のTSUYAMA FURNITUREの取り組みに共感した基礎になっていると思います。
当時、地域の木材を活用した商品を作るべきと思い、挑戦を始めましたが、戦後に植林された樹木は、丸太にしても小さく、節だらけで、商品に使うことができませんでした。
周囲になかなか理解してもらえず、支援もなく、取り組みは思うように進みませんでした。
その後、世の中が変わり、地域木材への関心や付加価値の高いモノづくりなどへの理解が進んだだけでなく、植林後60年から70年経ったヒノキやスギが大きくなり、木材として使える状態になりました。
美作地域の現在の木材、特にヒノキやスギといった針葉樹の質の良さは、他にはなかなかありません。
管理されていない山の木材は、節だらけだったり、曲がったり、割れがあったりします。
美作地域の木材は、植林した初期に、丁寧に管理され育っているので、60年から70年経過した今、品質の良い丸太として出回りだしました。
日本の森林の割合は、広葉樹が10パーセント。ヒノキやスギが75パーセントから80パーセント。その他がマツなどです。
家具の素材でいうと、硬い広葉樹を使うのが主流で、ヒノキやスギなど針葉樹のものはなかなかありません。
家具で有名な地域のものも外材を使っているものが多く、針葉樹の家具自体が珍しい存在です。
ヒノキやスギは、柔らかく、傷つきやすい反面、優しい木味があるのが持ち味です。
日本の気候の中で育っているヒノキやスギを使った建具や家具に囲まれた空間に住むのが、日本人には合っているのではないかと思っています。
産地形成やブランド化には、10年から20年くらいは必要です。
TSUYAMA FURNITUREの取り組みを、引き続き、長い目で支援してほしいです。
市長 地域の木材の質が良いというのは、とてもうれしいです。
参加者B TSUYAMA FURNITUREに参加して4年になります。
美作地域は、ヒノキやスギの産地で、品質も良い。地域の質の良い木材で、地元のわたしたちが作るという価値が加わることによって、より質の高いものができるのではないかと思い、参加しました。
普段は、1枚板のテーブルなどを作っています。
参加している5社の中で、唯一ヒノキやスギを取り扱ってこなかった会社で、TSUYAMA FURNITUREに参加してから、針葉樹を使い始めました。
普段使っている木材より、柔らかく、扱いにくい部分もありましたが、取り組みを続けているうちに、ヒノキの魅力に惹かれていきました。
ヒノキの魅力は、白っぽい、他にない特別な色味で、広葉樹ではだせません。
ヒノキやスギを、家具だけでなく、壁材に活用するなど、全国に広めていきたいです。
参加者C 皆さんと違って工場を持たない、卸売りを主とする会社の3代目です。
建材店なので、家具づくりに携わってきた参加者の皆さんとは少し視点が違います。
20年前にオーダーキッチン事業を立ち上げ、自社でデザイン・構造設計・販売していることが、TSUYAMA FURNITURE参加のきっかけとなりました。
キッチンは、図面を書き、お客さんの使い勝手などを聞きながら、細かく設計していきます。
単に家具としてだけでなく、住環境全体を提案・提供していくという、TSUYAMA FURNITUREのコンセプト(考え方)に共感し、建築や設計の視点から参加しています。
ヒノキやスギは、柱など、家屋の構造材として使われていますが、最近の家屋では壁紙などで隠れてしまい、表面上は見えません。
美作地域のヒノキやスギの構造材としてのシェアは、全国で1・2位を争うのに、東京の展示会では誰も知りません。
一般のお客さんを対象にした、東京 新橋でのTSUYAMA FURNITUREの販売促進イベントも好評でしたが、津山はヒノキの産地というイメージがないことを肌身で感じました。
認知度が低いのが課題だと感じています。
住宅のSDGsの取り組みは加速していますが、省エネの住宅を建てることが中心で、材料にどのようなものを使うかという分野は、まだまだ未開拓です。
構造材だけでなく、家具にも日本の木材を取り入れ、地域循環型の住宅の仕組みを作るという視点から、今までの経験で手伝えることがあるのではと思っています。
市長 良いものがあるのに、認知度が低いというのが課題ということですね。
相撲に例えると、誰もが知っている横綱級のものは少ないけれど、十両級の良いものがたくさんある津山。たくさんある良い素材を上手につなげて、まちの魅力を発信しようというのが、今取り組んでいる「津山まちじゅう博物館構想」の発想です。
課題の解決に向け、情報発信など、市でも支援していきます。
参加者D 家具を作る会社の3代目で、平成4年からプラスチックの大型成型も始めました。
もともと、材料としては、外材やMDF(木の繊維を固めたもの)、パーティクルボード(木材の切れ端を固めたもの)などの新建材を多く取り扱っていました。
家具へのヒノキの活用は、会社の会長がずっと言ってきたことで、取り組みも続けてきました。
でも、唯一反応があったのが通信販売で取り扱った風呂場のヒノキの戸などで、収納家具などもつくりましたが、お客さんからのニーズはありませんでした。
ヒノキの家具は、家具店での取り扱いがなく、一般的に認知されていません。
TSUYAMA FURNITUREの取り組みで、現在、少しずつ切り拓いているところです。
取り組みのおかげで、すばらしいデザイナーとつながることができ、デザイン力を生かすことで、ヒノキやスギという素材に光を当てることができました。
自分たちだけではできなかった取り組みで、やっと形になり始めたと感じています。
また、業種が違う5社。いわば、使う言語の違う人間が集まり、意見を交わしたり、共通の目標に向かって取り組んだりする中で、互いを理解し、共通の感覚を持てるようになってきました。
これは、日本中を探してもなかなかない、最先端の活動の一つです。
他地域の会社が作っている、ご当地の素材を活用した家具に美作ヒノキが採用されるなど、最近では、美作ヒノキの美しさに注目度が上がっています。
一方で、展示会では、大手企業がブースをのぞいてくれるものの、話をすると、供給量を不安視されます。
需要と供給のバランスが保てることも、ブランド化には重要だと思います。
美作地域は、乾燥などの知識、山の管理から製材、加工技術など、針葉樹に対してのさまざまな知見がそろう、いわば集積地としての素質を持っていると感じています。
ヒノキであれば、すぐにでも日本一の集積地になれると思います。
特定の分野に絞り、勝てるところで勝つ戦略が大切です。
市長 津山が全国のヒノキやスギのメッカになるということですね。
参加者D ヒノキやスギは、柔らかく、傷つきやすい素材だけに、デザインを形にするには、本当に大変で、高度な加工技術が必要です。
他社のヒノキを活用した家具も、表面のみヒノキで、中は素材の硬い広葉樹を使っているものがあり、加工の難しさからデザインもワンパターンになりがちです。
5社が協力し、集積した技術力や表現力をもとに、デザインを形にしていくTSUYAMA FURNITURE。
グッドデザイン賞は、森や森林保全への思いも含め、素材の良さや高い加工技術をきちんと評価してくれたのがうれしかったです。
TSUYAMA FURNITUREは、未来に森をつなぐ思いから地域循環の仕組みを作っていく取り組みです。
今後、もっといろいろな分野のメンバーが増え、活動の輪が広がっていくのではないかと期待しています。
市長 TSUYAMA FURNITUREのキーワードの一つが、ヒノキに加わった「デザイン力」ということですね。
参加者E 創業当時から神社やお寺などのお札などを取り扱ってきました。
材料の7割から8割が外材で、ここ何年かでヒノキに変わってきました。
約20年前に家具作りの挑戦を始め、フラッシュ構造(中が空洞の枠組みに板を張り付けたもの)の家具を作っていました。
ヒノキを使っていないわけではありませんでしたが、ヒノキやスギに真摯に向き合うことがありませんでした。
TSUYAMA FURNITUREに参加して、どういう加工をすれば品質の良い家具ができるかなど勉強になり、ヒノキやスギの良さや木目の美しさを改めて知りました。
個人としても、会社としても、経験値が上がる貴重な経験になっていると感じています。
市長 皆さん、外材が多いと言われますが、外国からの運搬経費などが掛かるのに、なぜ外材の方が安いのかと疑問に感じる人もいると思います。
参加者A 最近はそうでもありませんが、外国で伐採する熱帯雨林は自然に生えている樹齢100年から150年の木で、育成に手間がかかっていません。また、人件費もとても安価です。
参加者D アメリカなどでは、平地に計画的に植林をしていて、日本のように急峻な斜面を上がって、枝打ちをしたり、木を選んだりすることがなく、そもそもの仕組みが違います。
参加者A ただ、そういった仕組みに甘えてきた日本の木材市場が、今は問題だと感じてます。
市全体のブランド力向上
市長 需要拡大や認知度の向上に向けた、今後の取り組みの方向性や必要な行政の支援などについてお聞きします。
参加者E TSUYAMA FURNITUREというブランドをうまく活用していくために、外部はもちろん、地域に向けた発信が大切です。
地域でイベントや展示会を行い、津山だけでなく、県北地域、岡山県内の人に知ってもらうことが重要だと思います。
また、全国や世界に発信していく手段として、SNSやインターネットを活用した発信も重要で、行政にもどんどん発信してもらいたいです。
TSUYAMA FURNITUREを知ってもらうことで、津山市自体のブランド力、認知度も向上するなど、相乗効果が得られると思います。
参加者D 現在、TSUYAMA FURNITUREは、補助制度も活用しながら取り組んでいますが、自立に向けた転換を進めていかなければならないと思っています。
また、補助制度を活用している以上、地域にも還元していきたいです。
「展示し、触ってもらって売る」のがこれまでの家具の基本の売り方だったのに対し、TSUYAMA FURNITUREに携わってくれたデザイナーは先進的な考え方で、DtoC(Direct to Consumer)でお客さんに直接家具メーカーが売る仕組みが作れないかという視点に、共感しました。
インターネットで選び、届いた現物を見て気に入らなかったら返す。家具についての皆さんからの質問と回答や納期をスマホで共有できるなど、販売員がいなくても販売できる仕組みを取り入れたいと思っています。
5社いると、なかなかまとまらないこともありますが、すべてが勉強です。
みんなで意見を出し合って、良い仕組みを作っていきたいです。
家具を売るだけでなく、売り方のモデルケースとして、いろいろ挑戦していきたいです。
ウッドショックなどで、市場から木材がなくなると上がる。住宅が建たなくなると下がる。安定価格で、安定供給するためのストックヤード(倉庫)を設けるといった仕組みが必要だと思います。
日本全体でストック量を確保して、コントロールできるよう、市からも国に掛け合ってほしいです。
市長 価格を安定させることで、山や製材、加工に関わる人も増えると思います。国へも働きかけていきます。
参加者C 建築業界も、家という箱だけの販売から、家具など内部のものも含めた、住環境空間のコーディネートが求められてきています。
日用品や家具などを取り扱う大手ブランドでも、一部そういった流れがありますが、分野が異なる業種の連携が必要になるのでなかなか進まない、いわば手あかがついていない分野です。
また、例えば、木材のトレーサビリティ制度(生産から消費までの過程を追跡する制度)を取り入れ、家具に使う木材が、どこで育ち、切り出され、加工されたものかをたどれるルートを作る。これを観光分野と連携させて、宿泊し、地域のものを食べ、山を散策できるようにすることで、一つの家具から物語が生まれます。
子どもたちの木育などにつなげることもできます。
異業種と連携し、他が取り組んでいない分野を開拓していければ、SDGsや地域循環型社会を進める取り組みの一端を担っていけると思います。
市長 他地域より優位に立つ方策として、木材のトレーサビリティ制度は面白いですね。